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娘とともに自分を見失いがち。
ピヒィエェ~・・・キシェ~・・・
ピュヒャーン
ゥグッ・ブヒュヒュー
ハァ~・・・ハァアア~
ヒャシャー・・・
ピヒェ~・・・ピキャ~・・・。
(原文ママ)
★出産記 その5
博多どんたくと、ニューオリンズのマルディ・グラと、チベット僧のお声明大合唱
がいっぺんに身体の中にやって来たらこんななんだろうか(すみません、上記のいっこも行ったことないけど)。
それもガリバー旅行記のように「小人が」などというレベルでなくて
「実寸大の人々」が私のなかでエイヤー!エイヤー!とお祭りをしているかんじ。
自我はとっくに消え失せ、ただ衝撃を束ねる皮袋になってしまったぬまぶは
メメズのようにのたうち回るのであった。
いつの間にか傍らに夫がいて、腰を押したりさすったりしてくれていたのだが
それももうあんまり意味が無いというか、
夫婦の絆がどうのこうのいうよりも
人間としての権利とか尊厳のへったくれも無いかんじ。
陣痛の間隔は1分から2分。
ぬまぶはその短い時間のなかで夢と現実の間を行ったり来たりしていた。
まっ白い雪の平原にゴマつぶのような点々を空から俯瞰するが、近寄ってみるとそれは子供たちで
雪合戦の真っ最中だった
とか
我が家の脇にある旧式ポストの口がだらしなく開いたのをタバコ屋のおじさんが直そうとしている
とか
妙にクリヤァーなシークェーンスの夢を次から次へと見ては、
空中の眠りから現実へと引きづり下ろされる運動をジャギジャギと繰り返していたのである。
時間の感覚も完全に無くなり
産むも、生まれるも、自分が何をしようとしているのかも何がなんだか分からなくなった時に
「頭が見えてきた。分娩室へ!」
という助産師さんの声がした。
分娩室は隣の隣の部屋なのだが、そこを産婦は歩いて移動しなければならない。
そんなん絶対に無理!と思うのだが
どういう力の作用か
ぬまぶはファワーッと幽鬼のように立ち上がった。
「良かったわねえ、頑張るのよ!ぬまぶちゃん!」
という母の声がなんだかとても遠いところから聞こえる。
「とにかく!大きな便をするつもりでいきむのよ!!」
・・・分かったよ。ママン・・・その指示もう何度も聞いたよ・・・。
夫も、看護師さんも、廊下にいた知らない人達も
皆心配そうな顔で身体を左右の脇を寄せるのが、
スローモーションのように重く眼に映り
ああ、いつだったかの夕方にみた金八先生の
中島みゆきの「シュプレヒコールのなかぁ~」の加藤優が
逮捕されるシーンみたいだった。
分娩室に辿り着くまでにも一度陣痛の波が来て手すりに掴まりうずくまる。
うずくまりながらも
本当に?!
ぶんべん?!
頭が?
????
とやっぱり半信半疑なのだった。
分娩室に入ると
Kさんが全身深緑の医療用作業着に
深緑のシャワーキャップのようなものを被ろうとしていた。
ぽっちゃり型のKさんがそのそのような格好をするとまるでドラ●もんなのだが
正にドラ●もんのような母性と安定感を後光のように発揮して
「ハイ、上ってー。どっこいしょー」と彼女はぬまぶを分娩台の上に歓待した。
分娩室には、オルゴールの音色でサザンのなんたらいうヒット曲が癒しアレンジ
で流れていて、妙に寒々しいかんじ。
ぬまぶはやっぱり痛みでぶるぶる震えていたが
「ハイハイ、いま用意するからねー」とKさんは動じずぬまぶの股の向こうで着々と分娩の準備を進めている。
「おー、マッサージ頑張ったねー。これなら切らなくても良いかも」
そう、ぬまぶは会陰切開がどうしても怖くて嫌だったので、
Kさんの指導のもと一か月ほど毎晩会陰マッサージにこっそり励んでいたのら。
「こんなにマニアックにやって来た人、はじめてだわ。のびるのびる。」
と言われて嬉しいやらでも陣痛だわ。
「ぐわー!」
「息とめて!」
準備中に陣痛が来てもさすがKさん、動じない。
「いきんで!」
ひっくり返ったカエルの姿勢で何がなんだか分からないままぬまぶはいきんだ。
「ぶわー!」
ぶるぶるぶる・・・ゴゴゴゴゴゴゴ・・・。
「もう一度、息とめて!」
「いきんで!」
「ヴおー!」
「上手上手。やー、先生来る前に随分進んじゃったねえ」
まさにコール&レスポンス。お産はリズムだ。
ぬまぶがいきんでいる間にも準備は着々と進み、気づけば3人の助産師さんがぬまぶの股下を
囲んでいた。皆さんシャキシャキ働いてらして格好いい。頼もしい。
「キャッチ、回ります!」
ってアカゴは飛び出すのだろうか?
年配の助産師さんが、夫さんにいろいろ指示を出している。
「奥さんの唇がカサカサ!旦那さん、濡らして!」
「ハ、ハイ!」
と慌てた夫がタオルだかなんだかをびしゃっとぬまぶの口にあてる。
しかしそれがなんとなくポイントからずれていて、息が出来なくなったぬまぶは
コバヤ(夫の名)もまた追い詰められてるのな・・・と思った。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・ゴゴゴゴ・・・。
「ギィー!!!」
「うーん、まだ弱いかな・・・ちょっと、姿勢変えよう」
Kさんの指示で、ぬまぶはひっくり帰ったカエルの姿勢から左半身を下にむける体勢・・・即ちあの「最も陣痛を痛く感じる
ポーズ」を再びとることとなった。横向きの姿勢になったところで
Kさんがぬまぶの右脚を自分の肩の上に載せる。
「どう、苦しくない?よし。じゃあ、これでいこう!」
なんという変な姿勢か、と思ったがこれで確かに臍下丹田に力がぐんと入れやすくなった。
ゴゴゴゴゴゴ・・・ゴゴゴ・・・。
何も無いところから生まれ
道端でくるくると落ち葉を回していた風が
あっという間に巨大な竜巻に成長し、全てを呑み込みにやってくる。
ゴゴゴ
ゴゴゴ。
遠く、海鳴りのように鳴っていた痛みが
皮膚の内側に入り込み肉と骨を灼き、鋭い大きな力となって身体を射抜くと
なんとわたくしの、産もう、とする意思に連動するのだ。
「ヴーーッ!!!」
こういうことか。
こうやって『産む』のか。
こうやってわたしたちは『産ん』できたのか。
ぬまぶは分かったのだ!
「ヴヴヴヴヴヴ、ヴオー!!!!!」
ぶわぶわぶわっ
と臀部が6倍位に膨れたかと思ったその瞬間
骨盤に挟まっていた巨大な塊がガパッと外れ、突然
柔らかい、濡れた頭髪が腿の内側に触れた。
「もう一回!」
「ヴー!!!!」
「ヴオー!!!!!」
夢でも現実でも無い。
なにものかがこの世に出現しようとしている。
聞こえてはいるけれど、世界は無音なのだ。
「呼吸変えて!はい、フーッフーッフーッフーッ」
股の間にニョキッと生えたアカゴの頭が回転するのにあわせて
空間はとろとろと凝り、異様な密度に満たされている。
世界全体が身体になってしまった感じ。
傍らで夫さんが親指で涙をぬぐっている。
「はーい、出てきた、出てきた」
・・・・・・。
・・・ホんげぁ~・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
ホんげぁ~・・・だって。
「アハハハハハハ・・・。」
気がつくとぬまぶは大声で泣き笑いしていた。
「元気な女の子ですよー!」
・・・フんげゃぁ~。
「アッハハハハハハハ。」
本当に現れたよ、どこからか産まれたての赤ちゃんが!
うそみたい。
ああ、本当に産まれた。産まれちゃった。
どうしよう、どうしよう?
アハハハハハ。
笑いと涙に引き裂かれながら
嬉しいのか哀しいのかなんなのか
どうしたら良いのか分からない気分だったのだけれど
狭い産道を潜り抜けたせいでぼこぼこに変形した
頭と顔をくちゃくちゃにして泣き叫ぶ赤ん坊の
血と体脂に塗れた懐かしいその匂いを、
わたしは一生忘れないと思った。
以上。
後日改めて母子手帳を見たら分娩所要時間37時間10分とあった。
あー、やれやれ。よく産んだもんだ。
【付記】コバヤさんに立会出産の感想を聞いてみました。
(どうでしたか?)
コバヤ:いやー・・・すごかったよ。すごいなと思いました。
(それだけかい?という質問に)
コバヤ:いやー・・・なんというか、しんぴてきというか、こうごうしいというか
なんか、全てがはじまるじゃない?ふだん一緒にいるぬまぶさんから何かはじまるというのは
すごいじゃない?
(それだけ?)
コバヤ:・・・うーん。それだけじゃだめ?
だそうです。
管理人のみ閲覧可
夫さんのタオルの談笑いながら切なくでも爆笑です。
産後のコメントも、私の夫とは全く違う才能もセンスもある方なのに(我ながらセンスのない表現だけど)すごくかぶるんです。まるで夫の言葉を聞いているようです。
うん。なんか短く勘違いしてた。しかし最後の方完全に時間の感覚が無かったので、傍で付き合ってた人(夫に母)の方が大変だったんじゃないかな。
>
>夫さんのタオルの談笑いながら切なくでも爆笑です。
>産後のコメントも、私の夫とは全く違う才能もセンスもある方なのに(我ながらセンスのない表現だけど)すごくかぶるんです。まるで夫の言葉を聞いているようです。
oh!no!さんて理系だっけ?理系だからこう、物事への言葉の反応がタンパクなのかな、と思うときもある。いや、単にこういう人なのかな。
こんなこと軽々しく言うといけないのでしょうが、この間読んだ出産本に陣痛と陣痛の間に、実はとんでもなく強力な脳内麻薬が出ると聞いて、来年4月のすっさんがとても楽しみになっております。
カフェスローの集まりにも行きましょう!
産んで、自分のベッドに行くまでは車椅子に乗るんだけれど
その時、病院の蛍光灯の光が本当にきらきらきらきらして
雪のように降りかかる気がしたのですよ。
それは麻薬のせいだったのかしらん!?
出産記、ずっと楽しく読んでいました。
とうとう最終回♪
出産までのいろんなエピソードプラスぬまぶんさん独特の文章効果で、私は声を上げて笑ったり、じわっとなったりしながら読ませていただきました。
心に響いたこのくだり。。
「遠く、海鳴りのように鳴っていた痛みが
皮膚の内側に入り込み肉と骨を灼き、鋭い大きな力となって身体を射抜くと
なんとわたくしの、産もう、とする意思に連動するのだ。」
命の誕生にはものすごいエネルギーが発生するのね。それに乗っかっていくお母さんも相応のエネルギーで挑まないとならないのね。
とか言って…こればかりは体験してみないとわからない。
ぬまぶんちゃん、コバヤさん、ほんとうにおめでとう♪
お久しぶり。やー、出産記最後まで書けて良かった。
もう、忘れかけているんだよ。
あんまり痛いもんだから、次産めなくなるんじゃないかとも思ったけど
こんなふうに忘れちゃうなんて自分でも不思議じゃー。
しかし、あの「産む・産まれるエネルギー」は本当にどっからやって来る
んだろう。何ものかに身体をのっとられるかんじですよ。
あの大きさで切らずに済んだなんて!!!
私は…切りました。
しかも、間に合わなくて、裂けました。
分娩所要時間は11時間ほどで、めっちゃ安産と言われましたが、後が痛かったのなんのって…(汗)
ところで、もうsenさんご訪問済かしら?
裂けたのよ(イデデデデデ)
でも、もう少し小さかったら大丈夫だったというお話。
残念じゃ!